Shizuko's
Ceramic Class

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管理人の戯れ言

11.有名人の話 5(ももいかおり)新春スペシャル
暗闇の中、二人は六本木3丁目付近を北に向かって歩いている。月の明かりだけが雨上がりの街路を照らす。街灯もなければ、ビルの明かりもない。
「うちで口直しするわよね。」
「は、あー」
「さっきのワインはひどかったわよね。」
「・・・・。」
「ボルドー産でどうのこうのと言ってたわね」「聞いてるの?」
「あー。」
俺にとってはフランスワインでもドイツワインでもどうでもよかった。今、重要なことは、俺がどうしてこの道を彼女と歩いているかを思い出すことだ。たった1杯のワインと3杯のギムレットが脳ミソを突く。 エスカルゴのガーリックが口内で踊る。(エスカルゴ)と(ラム)。よくもにおいのきついものばかり食べたものである。 15分ほど歩くが、人っ子一人歩いていない。
「もうちょっとよ。そこの坂道を少し行った所の、右手のレンガ造りのマンションがうちよ。」
何故、タクシーでここまでこなかったのか、聞こうとしたがやめた。 セキュリティのゆきとどいたマンションである。管理人室には、もう誰もいなかった。四階の38号室が「ももいかおり」の部屋だった。不思議なことに438号ではなかった。
彼女の部屋に入るのは初めてだった。モノトーンに統一されたオープンキッチンと広いリビング・ルームが印象的だ。無駄なものは何もない。 リビング・ルームの中央にソファーとガラスのテーブル、壁に組み込まれたテレビがあるだけだ。
「何、飲む?」
「アイス・ウォーター」
「何、いってんのよ。」
「まず、水を飲ませてくれ。」
「べーリーズは?」
「あるわよ。誰かがくれたのよ。」「変なの飲むわね。」と言いながら自分は日本酒の冷や酒を飲みはじめる。
(ももいかおり)が日本酒をつまみなしで、グラスをあおる。豪快である。底無しである。
「優作とここでよく飲んだのよね。あなたが座っているそのソファーで。」 「私も強いけどさ・・あいつも酒は強かったのよね。」「ウイスキーでも日本酒でも、何でもオーケーだったわね。」「膀胱がんで死ぬ前まで、私と飲んでたわ。」「映画が好きだったわね。」「(ブラック・レイン)を完成するまでは、病院なんか行けるか。って言ってたわ。」
他の男の話を聞くのは、楽しいことではなかった。深酒をすると、昔の友人、男たちが、走馬灯のようによぎるのだろう。
「芳雄ともよく飲んだわね・・・・。」
「確かイギリスでバレエをしていたんですよね。」と話を変えてみた。
「昔の話よ。バレエは5才から16、7才までしてたかな。」「そのわりに、太ってると、言いたいんじゃないでしょうね。」
「とんでもない。」
「ところで、面白い話があるんですよ。」
「なによ。」
「映画(あらかじめ失われた恋人たちよ)で初めて君を見てから、しばらくしたある日、テレビで君を発見したのです。」 「不思議じゃないわね。」「まあまあ。話はこれからです。」「たしか木下恵介劇場だったと思うが・・・。」「カメラが女性の後ろ姿をとらえ、否、お尻と言ったほうが良いかもしれない。」「画面に写った大きなお尻のクローズアップをみて、俺はすぐ君だと分かったのです。」「この”お尻”だ!」[あの映画で見た”お尻”だと。」(”あらかじめ失われた恋人たちよ”で海辺を歩く君を、後ろから撮るショットがあった。)それ以来、俺は(ももいかおり)のファンになったのです。 「失礼しちゃうわね。」「そんなに私のお尻が大きいとでも言うの。」 「俺は(ももいかおり)でなく(ももいおしり)が好きになったのかも知れない。」と言うと、 失笑しながら、自分のグラスを俺に手渡し、酒を並々とついだ。
「罰よ。いっきに飲みなさいよ。」
「・・・・・・。」
何故、この話をもっと前に話さなかったのか、何故、もっと前に彼女の部屋にこなかったのか考えながら、少しずつ意識を失っていった。

目を醒ますと、かおりはシャワーから出てくるところだった。真っ白いバスローブに濡れた黒髪がまとわりつく。
「目が醒めたのね。」マール・ボローに手をのばす。「シャワーでも浴びてきたらどぉー。」
「あぁー。」鈍痛が頭を砕く。あまり飲めない酒を飲みすぎてしまったようだ。何時頃だろー。どうでもよかったが時計をみる。まだ夜明けには時間があった。 シャワーからでると、かおりは煙草をふかしながらキングサイズのベットの中で俺を待っていた。俺は無言でベットの足元から忍び込んだ。柔らかな肌、 それでいて心地よい弾力、足首から上のほうに這い上がる。すると突然、両手で体ごと吸い上げられる。深い深い森の中をさ迷う。俺の体は漆黒の闇の中に消えてゆく。(かおり!)(かおり!)暗闇の中で何度も彼女の名前を叫ぶ。
巨大な得体の知れない力が、俺の体を宙に浮かす。浮いた体は、頭から地面に叩きのめされる。

「おはよう。あけましておめでとうございます。管理人さん。」
一体何がおきたのだろう。両足にシーツが絡み付いてはなれない。
「かおり!かおり!って唸っていたけど、私の名前は志津子よ。」
ようやく、今の状況を把握することが出来た。”先生”が私をベットから落したのだ。シーツに絡んだ足だけがベットに残り、上半身がベットと壁に挟まれて、身動きがとれなかった。グレゴール・ザムザのように。

俺はここから脱出することよりも、初夢の続きを追った。両目をつぶって”かおり”を捜したが何も見えてこなかった。ベットの端か壁にぶつけたのか、頭が痛い。

きびすをかえして”先生”が優しく一言。「元日のスペシャル朝食をお願いしますね。管理人さん。」

2001年1月1日


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