今年のゴールデングローブ賞に「Gladiator」(作品賞)が選ばれた。
主演:ラッセル・クロー監督:リドニー・スコット。
アクション娯楽大作とでも言えば良いだろう。
時はローマ帝国の時代。妻と子供を殺された男の復讐劇である。
昨年、この映画を見たときに少し驚いたことがあった。
何故なら、2年ぐらい前にすでに死亡していた、オリバー・リードが突然スクリーンに現れたからである。
オリバー・リードはイギリスの性格俳優で、不細工な顔はしているがなかなか面白い俳優であった。
心臓麻痺が死因だがアルコール依存症が遠因であろう。
この映画の撮影中に急死したのか、
彼は、この映画の途中で殺されてしまうのである。
ところで、彼に会ったのはビバリーヒルズのブティックである。
1980年代前半の3、4ヶ月ぐらい、私はこの店で働いていた。
その日、二階のオフィスから一階のお店に出ると、何やら騒々しかった。
店では、オリバー・リードが奥様にプレゼントをするためにスカートやブラウスを従業員に試着させていたのである。体はがっちりしていて、声は大きく早口である。
小一時間たって、セールスの女性が商品をキャッシャーに持参すると、彼も早口で喋りながらついて来たのである。サイズ、色、コーディネーションは大丈夫か確認の為に。
この店のキャッシャーは奥まった所にあり、お客様が入ってくることは今まで一度もなかった。
キャッシャーの所にいた私は有名な(私にとって)俳優が目の前にいると言うより、昼間から酒臭いこの陽気な男に圧倒されていた。
ギフトを買うとか、お喋りをすることが楽しくてしょうがない、やんちゃ坊主のようであった。
最後には自分から皆に握手をして帰っていったのである。
オリバー・リードが映画で殺されるシーンは何と寂しい死にかただろう。
元々あのような形で死ぬ役だったかも知れないし、急死のための止むを得ない措置だったかもしれない。
もっと派手な死にかたが彼にはふさわしかった。
舞台俳優がするように、死に至る寸前まで饒舌に語るセリフを聞きたかった。
酒の瓶を片手に、襲ってくる敵に向かって。
「おお・・・。遅いではないか。」
「奴は、たった今ここから出ていった。」
「悪魔にそそのかされた愚か者よ!」
「もし奴を捕まえたければ、この俺様の屍を乗り越えて行け!」
「そして、俺様の真っ赤な血を浴びるがいい。」
「酒で呪われた血は、やがてお前たちの肉体をも蝕んで行くだろう。」
「さあー、はやくその槍を・・・・」
「心の臓をめがけてかかってくるがよい。」
一突き、二突き、三突きされるが怯まない。
「はあ、はあ、はあ。愚か者よ!」
吹き出る血を見ながら。
「もっと、もっと出るがよい。」
「この腐りきった肉体から湧き出る呪われた血を浴びたお前たちは、俺と運命を共にするのだ。解ったか。」
「ああ・・・。何と気持ちが良いのだろう。」
「一切の血よ。早く流れ行け!」
「私は今、かってなかった歓喜と陶酔に浸っている。」
「さあ、私の・・・・・」
壁に寄りかかったまま崩れようとした時、弓矢が眉間と心の臓に刺さる。
呪われた血はもう一滴もでなかった。