先月、”先生”と二人でメンドシーノへ行った。
Mendocino はサン・フランシスコから北へ130マイルぐらいの所にある太平洋に面した美しい街である。
また、Mendocino Countyはナパ、ソノマ・カウンティと並んでワイン生産で有名である。
その時のエピソードを二つ紹介しょう。
エピソード1
初日、出発が遅れた為、ホテルに着いたのが7時を過ぎていた。
ここはメンドシーノの隣町 Fort Bragg。
ホテルのクラークにお薦めのシーフード・レストランを聞いて、その場所に着いたのは8時ごろだった。
お薦めのレストランはフィッシャーマンズ・ワーフの広大な駐車場の一角にあった。
名前は「The Wharf」。いかにもシーフード・レストラン風である。
広大な駐車場のまわりにはロッジやギフト・ショップがあった。
レストランに入ると、窓際の眺めの良い席に案内された。
人の良さそうなおばさんから渡されたメニューを見て絶句した。
ディナー・メニューの8割がディープ・フライだったのである。
どの魚介類もディープ・フライだった。
「ディープ・フライ・・・・」
「ディープ・フライ・・・・」
「ディープ・フライ・・・・」
チオピーノでも食べようかなと思っていた、我々は止むを得ず、一番下にあった3種類のパスタから2つを注文したのである。
ディナー・メニューに付いている前菜には豆、ニンジンそして長ねぎが(長ねぎですよ!)。
薄口で芋ばかりのクラム・チャウダー。
水ぽいパスタと塩味のきついパスタ。
食事を残すことがなかった私だが、その日は二人ともお腹が{いっぱい}で食べる事が出来なかった。
レストランから出ても、私の頭の中は「ディープ・フライ」で一杯だった。
「ディープ・フライ」は食べなかったが、あのメニューが頭から離れなかった。そして、「ディープ・フライ」「ディープ・フライ」と呟きながら車の方へ歩いていった。
暫くして、”車”のそばに着くと”先生”の姿がなかった。
振返ると”先生”は遠く離れた車にもたれ立ち止まっていた。その時はじめて自分のそばの”車”が自分の物でない事が分かった。
”先生”の方に戻って行くと、堪えきれなかったのか大声で笑い出した。
私が「どうして言ってくれなかったのか?」と聞くと。
「あまりにも面白くて声が出なかった。」そうである。
「ディープ・フライ、ディープ・フライと言いながら、自分の車の横を通り過ぎてしまうので・・・・・」と言いながら笑い出した。
ホテルに戻るまで、車の中でも大声で笑っていた。
私はマリン・カウンティにある日本料理店を思い出していた。
そのメニューは
「天ぷらと・・・」
「天ぷらと・・・」
「天ぷらと・・・」
と10種類以上の天ぷらのコンビネーション・メニューである。
アメリカ人の天ぷら好きを思ってだろうか。天ぷらとのコンビネーションがあまりにも多い。
部屋に戻ってからも、”先生”の思い出し笑いは止まらなかった。
「ハッハッハッ、ハッハッハッ・・・」
あたりが静まり返った静寂のなかを”先生”の笑い声が響き渡った。
エピソード2
メンドシーノの街を散策。
洒落たガーデン・レストラン。
洗練されたアート・ギャラリー。
カテゴライズされたギフト・ショップ。
波に侵食された海岸を散歩。
我々は十分満足したのだが、一つだけ忘れていたことがあった。
ワイン・テイスティング。
ワイン・カウンティとして有名なメンドシーノのワインを一本買ってこようと思ったのである。
ワイナリーが集中しているAnderson ValleyにあるBrutocao Cellars に入る。
ギフト・ショップが一緒になっている小さなテイスティング・ルームである。
胡麻塩ひげが良く似合う中年の男が我々の応対をしてくれた。
1999 Chardonnay 1999 Sauvignon Blancと試飲しているうちに、我々にサーブしている男の妻が大磯(神奈川県)出身の日本人であると告げられる。
こんな片田舎にも日本人がいることを驚きながら、顔が火照ってきているのがわかった。
意気投合しているところに、1998年物のシャドネーが飲みごろで安いがどうかと薦められる。
1998 Chadonnayを試飲。
1999年物と同じようにフルーティで美味しかった。
酒の弱い私は、頭がだんだん熱くなってくるのを感じる。
赤ワインを飲みたいという”先生”の言葉につられ, 1998,1999 Zinfandelを続けて飲む。酸っぱい感じがして我々向きではなかった。
赤にしては新しすぎる。
もう一度1998年物のシャドネーを薦められ試飲する。
私はもう既に出来上がっている。
我々はお薦めの1998年物シャドネーを買う事に決めた。
日本人妻を持つというだけで、物腰の柔らかな胡麻塩ひげの男にのせられてしまったのかもしれない。
こんな買い物をするつもりがなかったので、記念写真をワイン・グラス片手に撮ってもらう事にした。
その記念写真には12本入りのケースが、我々の間に納まっていた。
余談:
帰りに寄ったBodega Bayにあるレストラン「Lucas Wharf」のThe Fisherman's Stew と Seafood Pasta は素晴らしかった。
本物のシーフード・レストランに出会えた。
ディープ・フライの怨念からようやく解き放され、レストランを出る事が出来た私は、自分の車を間違えることはなかった。