最近、日本のテレビ番組「料理の鉄人」がこちらのテレビ(Food Network)で放送されはじめた。
以前、日本人のために日本語放送として放映されたのがきっかけで、全米向け放送になったようである。この番組はアメリカでも人気なのである。
ところで、私はサン・フランシスコのダウンタウンのレストランで若き鉄人を発見した。
「Sanraku」の料理長村上氏である。
ユニオン・スクェアーから数ブロック離れた所にあり、寿司バー付帯の普通のレストランと懐石用のレストランに分かれている。
704 Sutter Street,San Francisco
八月の懐石料理を紹介しょう。
前菜は冷シャブ、海鮮酢の物、煮こごり。
三種類の前菜が、小さなガラスの器にそれぞれ盛り合わせて一つのハーモニーを奏でていた。
椀物は南瓜汁。
かぼちゃのスープには驚かされた。
冬至南瓜とは違った、夏の香りを堪能させてくれる逸品である。
お造りは勿論刺身。
アイス・ボールの中の刺身の盛り合わせが、心憎いプレゼンテーションである。久しぶりに本物のトロを食べさせてもらった。
揚げ物は海老の養老揚げ。
洒落た芋のフライときゅうりと酢で作った「みぞれ酢」が素晴らしい。
私としてはこのソースがもっと欲しかった。
肉料理は牛肉のステーキ。
からし醤油で食べる上質の牛肉。松坂牛におとらない味わいと風味。
食事は鯛飯、香の物、味噌汁。
鯛飯の上に鯛の身をのせた、この鯛飯は実に美味しい。
甘味は「夏の味覚」と名付けられデザート。
ストロべリー、ブルーベリー、ラズベリーをミックスしたシャーベット。
まさにベリーグッドな最後の一品であった。
我々庶民にはなかなか食べられない懐石料理を堪能させてもらった。
ところで、私は一つだけ疑問があった。
味噌汁である。
隣のレストランと同じ味噌汁では納得いかない。
実はお椀を開ける時の期待感が余りにも大きすぎたのかもしれない。
前菜から驚きと感動を与えてくれた氏の技量からすれば、落胆せざるを得なかったのである。
葉月(八月)の御品書を見ながら、長月は、霜月は、卯月の頃はどんな料理がでるのか胸踊る気持ちである。
今回の料理では[Masa]や[Star]のシェフと互角かもしれないが、次回はどんな有名シェフが相手でも[Sanraku]の村上氏には勝てないだろう。
何故なら日本料理の伝統に加え、氏のモダニズムが融合された「前菜」から「甘味」は完璧な懐石料理に仕上がっているばかりでなく、「究極の味噌汁」が、あなたを至福の境地へ導くからである。
勿論ご馳走の器は、村上氏が制作した陶芸品であるのは言うまでもない。
「料理の鉄人」は「陶芸の鉄人」にもなろうとしている。