Shizuko's Ceramic Class

[ホーム] [プロフィール] [ギャラリー1] [ギャラリー2] [ギャラリー3] [ギャラリー4]
[展示] [CONTACT US] [やきものの工程] [陶芸教室] [リンク]

管理人の戯れ言

45.揺れ動く「国旗」

年末年始は中々「戯言」も書けませんでしたので、いい加減と 思われるかもしれませんが,今日は北米毎日新聞社(サン・フランシスコ)の 新年号に掲載された「揺れ動く{国旗}」 (エッセー・コンテスト入選作品)を紹介させて戴きます。
このエッセーは、まるで自分の"分身"が書いたように思えるほど、私の気持ちが表現 されていましたので、是非読んで戴きたくここに掲載します。
掲載にあたりましては、「北米毎日新聞社」の了解を得ております。 ところで、本文は読みやすくするために、改行を多く使っておりますのでご了承下さい。

 

「揺れ動く{国旗}」
島 和彦(サン・ラファエル)       今、私は一枚の写真を見ている。
九月十一日の同時多発テロ事件を特集した雑誌の最後のページの写真である。

表紙には、黒煙を上げる世界貿易センターに2機目が激突する寸前の写真が掲載されている。
逃げ惑う灰だらけの人々。
襲いかかってくる煙を背に、泣きながら走っている日本人らしき子供。
半裸の血だらけの男性。
自分のシャツと同じぐらい真っ赤な血を流しながら震えてしゃがみこんでいる女性。
茫然自失の医師、警察官、消防隊員たち。
体中が真っ白くなった消防隊員が、焦点も定まらないまま放心状態のさまは印象的である。
自分たちの仲間をあっという間に失い、ビルに閉じこまれた人を助けることが出来ない焦燥感と、 どうすることも出来ない無力感がそうさせるだろう。
最近、涙腺の閉まりがことさら悪いので、記事は読まず最後のページの写真に辿り着いた。
カラー写真なのだがセピア調にみえる。
あの凄惨な事件から、2週間後に撮られたグラウンド・ゼロの写真である。
煙に包まれたがれきとビルの壁と思われる破片を背景に、3人の消防隊員が星条旗を揚げている ところである。
この写真のタイトルは「A BANNER YET WAVES」とある。

この写真の「国旗」は色々なことを考えさせてくれた。
ある年配のアメリカ人が「これは悲しい事件だが、これによってアメリカ人が団結し愛国心が復 活したことは喜ばしい。」と笑顔で玄関の「79」と印刷された星条旗を見ながら言っていた。
私は仕事でアメリカに来て久しいが、日本国籍を持ちながら帰国する気持ちがあるのか分からな いまま、漠然と生きていることの不思議さを感じていた。
このままアメリカに永住するつもりでいるのかも定かでない。
「子供が成長するまでは、どうにもならないだろう。」と子供のせいにしているのである。
日本が以前ほど魅力的な国ではなくなっているのは確かだろうが、今回の事件は強靭なアメリカと 団結力の強いアメリカ人を見せつけられた。
そこには魅力的な国と国民の一体感があった。
「戦争」が始まった今、アメリカ国内に住むアフガニスタンやイスラム・アラブ系の人たちは どんな気持ちでいるのだろうか。
真珠湾攻撃以来、いばらの道を歩んできた日系人のような運命を辿るのだろうか。
彼らの心は母国にあるのか、それとも自由を謳歌できるアメリカにあるのだろうか。
心の中に2つの国旗を持つ人たちが大勢いる。

星条旗が野球場や街角のみならず、多くの家庭で揚げられている。車にも星条旗がなびいている。
日本でこんなことをしたら、暴走族か右翼団体と白眼視されるだけである。
日の丸や国歌が軍国主義の再来と思う人がいる。
それはその人たちが耐え難い苦渋をなめてきたからだろう。
「そんなことは昔のことだから忘れなさい。」と、簡単に言えないところが淋しい。
愛国心が人一倍あるが故に、過去の過ちを許せないでいる人たちがいるのも現実なのである。
アメリカ人の愛国心は自由と大地から成り立つ。
この2つを脅かすものが現れれば、アメリカ人は素直に1つになれるだろう。

私は、再び写真に眼を落とした。とてもニューヨーク市の中心地とは思えない。「戦場」と言った 方が良いかもしれない。
このテロ事件で消防隊員の夫を失った未亡人が「夫を亡くして、自分が強くなってきたのを感じる。
彼は永遠に私の心の中で一緒に生きてくれるから・・・。」と、潤んだ目で言っていたのを思い出 した。
この写真は全体がセピア調だが、日が差していることが分かった。
星条旗の赤、青、白の3色だけが鮮やかに浮かび上がっていた。
魑魅魍魎とした地獄絵を見た遺族たちは、このグラウンド・ゼロから力強い一歩を踏み出し、「星 条旗」と共になびき始めた。

今頃、この写真の星条旗は「YET」がとれて風になびいていることだろうが、未だに消えない煙の向 こうに「A RISING SUN」はいつ頃現れるのだろうか。

私の心は「星条旗」の陰に見え隠れする「日の丸」と共に揺れ動いている。

選評

今回は「21世紀に思う」と自由なテーマだったが、どの作品も多かれ少なかれ、9月11日に 起きた米同時多発テロの影響を受けていた。
審査の結果、1等には「笑おう!」、2等には「揺れ動く{国旗}」、3等には「{未完了} ということ」が入賞、佳作には「私のこと」「死ぬ覚悟」「{チィイシュアナウィシャ}の思い出」 「ボランティア1年生の記」の4作品が入った。
審査に当たった国防総省外国語学校日本語学部長の加藤喬さんは、論旨がしっかりしているか、また 作品の中で不必要な英語を使わず、視覚的で説得力のある日本語を使っているかに注目した。 また加州デービス校日本語科専任講師の榊原晴子さんは、作者の経験がうまく生かされていたか、 文章の構成や言葉の選択において、どのような工夫がなされていたか、また内容が題を的確に表して いたかに注意を払い、作品を選んだという。
1等に選ばれた「笑おう!」は黒人が差別や逆境に遭った時、生き延びるためのすべとして生み出した 「逆境の笑い」について、黒人女性運転手の話を上手に引用していた。また、明るい話題であることも 1等に選ばれたカギとなった。

2等に選ばれた「揺れ動く{国旗}」は観察力のある描写の細かい文章でかかれており、文章 構成もよく考えられていた。まじめで少々重い感じのするエッセーだが、アメリカの星条旗と日の丸 の旗の話を掛け合わせ、読者に考えさせる奥深い文章で良かった。

そして3等に選ばれた「{未完了}ということ」は生きていく上で人とのコミュニケーションが大切 であることを、本の例と作者の夫との経験談を上手に重ねて書いていた。しかし、本の感想文で、 エッセーとしては個性に欠けるという点から上位を逃した。

中略(佳作4作のコメント)

最後に加藤さんは2、3等の作品と佳作に差が出た点について、内容の充実性、視点のユニークさ、 公平さ、読者に納得させるための例の引き方や語り口の自然さを挙げた。 また、榊原さんは、内容の一貫性や普遍性、斬新な発想や表現があったか、経験や知識が上手に 引用されていたか、また読者に共感を得る内容であったかなどを考慮した。
なお掲載にあたっては、新聞用に誤字を正し、脱字は補い、使えない漢字は平仮名にしたことを お断りしておく。

1月15日2002年


Copyrights (C) 2000-2002,Ceramicstyle