元旦は日本レコード大賞(日本では大晦日?)を見ながらのんびりと過ごした。
2002年の新人賞や大賞の合間に、過去の受賞者もビデオで流されていた。
何とも懐かしいものである。
歌というものは、それぞれの方の自分史の中で大きな意味を持つものと思われる。
時代背景から自分の歴史のひとコマが思い出される。
『シブガキ隊』が画面に流れた。
彼らはジャニーズ事務所のアイドル歌手だった。
ジャニーズ事務所をよく知る人物によると、あまり期待されなかったメンバーだったそうである。
グループ名がそれを物語っているようだ。
私は彼らのファンでもなければ、歌を思い出すことは出来ないのだが、ひとつだけ思い出があった。
私は叫んだ。
「あの男だよ。サインを貰ったのは・・・」
隣には”先生”と下の娘がいた。
「はじめてサインを貰った人はあの真ん中の男だよ・・・」
それは私がサン・フランシスコのブティックで働いていた頃の話である。
『シブガキ隊』のメンバーは薬丸氏だけだったが、数人の人と買い物に来た時だった。
その時、どんな品物を買ったかは記憶はないが、気取ったところもなく明るい好青年(好少年?)だったことは間違いなかった。
私は咄嗟に、子供に良い所を見せようと思った。
それまで、政治家、医者、スポーツ選手、歌舞伎役者、俳優などの有名人と接触する機会があったが、一度もサインを貰うなどという行為に出たことは一度もなかったのである。
私は思った。
『今をときめくジャニーズ事務所のアイドル歌手のサインを持って帰れば、私の地位は数段あがるだろう』と。
子供も一目おくに違いないと思ったのである。
薬丸氏はカウンター越しであったが、私の申し出に快く応じてくれた。
ところが、結果は惨憺たるものだった。
決死の気持ちで貰ったサインは子供たちの興味を全く喚起しなかったのである。
「あ、そー」
そのサインをよく見ようともしなかったのである。
そのそっけない態度に私は深く嘆いたのを今でも覚えている。
「本当にどうしようもないね。折角もらったのに・・・」
「子供たちのためにわざわざ貰ってあげたのに・・・」
私はあの時の憤懣を再現した。
すると下の娘が言った。
「当たり前じゃん。会ったこともない人のサインを貰ってどうするの?誰も要らないよ。」
「お姉ちゃんとお兄ちゃんはいくつだったの?」
私はよく覚えていなかったが答えた。
「確か6才と1才かな」
娘は背中をソファーにぶつけて言った。
「がーん。何を考えてるの? 誰もそんな年じゃサインなんかいらないでしょ」
「当たり前じゃん」
隣で聞いていた”先生”も娘の真似をして叫んだ。
「当たり前じゃん」