”先生”の誕生日でパリに行って来た。
実はこれが大変だったのである。『?才』という節目を考えると家族で食事をするという
例年の誕生日会では本人も納得しないだろうと予測したからである。
私は『Surprise Party』か『Surpeise Travel』のどちらかを考えたが『旅行』に決めた。
パーティーと比べると手配が簡単だと思ったからだ。だが、旅行の方もなかなか簡単
にはいかなかった。
二人だけで行くのか、旅行先はどこにするのかと頭を悩ましたのである。私は思い悩んだ末、
丁度、『スキーウィークエンド』などという名の休みが一週間あった娘を連れ、三人で
パリ行きを決定したのである。
この旅行は”先生”には内緒のため、私はあらゆる困難を乗り
越えなければならなかった。
まず”先生”にバレないように着るものを用意しなければならなかった。
上下はなんとか選んだが、下着には困った。”先生”の棚や引き出しなどは
開けたこともなかったので、下着泥棒になったような猟奇的な気分にさせられた。
化粧品は当日の朝、何とかすることにして、すべてボストンバッグに詰め込んで車に隠しておいた。
当日の朝、家を出てしばらくしてパリ行きを告げると、いろいろと忘れ物があったことに
気づかされた。
その中には高血圧用の薬があった。これだけは忘れてはいけないものだったが、「大丈夫」
という”先生”の言葉でパリに出発した。
私たちは初めて見るパリに圧倒された。少し肌寒かったが、眼前に迫る巨大な
エッフェル塔や
ヨーロッパの香りが漂う凱旋門の上には、私たちを歓迎するかのように青空が横たわっていた。
”先生”もパリが気に入ったようで、食事もいつもの三倍ぐらい食べてご満悦だった。ところが、
翌日には、ベニスに行ってゴンドラに乗りたいと言い出したのである。
二年ほど前に行った時には、時間の都合がつかず乗れなかったからだった。
私は今回は特別な旅行なので、”先生”の為にベニスに行くことにした。
意外にもパリからベニスはそんなに遠くなかった。私たちは真っ先にゴンドラに乗った。
流石に観光地である。出発の時に
記念写真を撮ってくれた。暫くすると陽気なゴンドラ牽きがカンツォーネを歌ってくれた。
嘗て見せたことのない、幸せそうな”先生”の顔がそばにあった。
パリに戻るとエッフェル塔に上った。パリの真ん中に聳えるエッフェル塔からは360度の風景を
見ることが出来た。
パリのまん前には『Bellagio』が立ち、目を右に移すと『Bally's』
があり、その先には少し前に行ったベニス『Venetian』が見えた。エッフェル塔を一周すると
5,6年前に泊まったピラミッド型の『Luxor』がスフィンクスの横に黒光りしていた。
最後の日、私たちはブランチを済ますと、『New York.New York』にある自由の女神の
下を駆け抜けて、パリと砂漠の不夜城に別れを告げた。
いつまでも”先生”から笑顔が消えることのないように、と祈りながら・・・