ある土曜日の朝、私は頭痛で悩まされていた。
原因は分からないが、頭をハンマーで叩かれているような状態だった。
久しぶりに晴れた空からは明るい陽光が窓越しに射し込んできているのだが、私
の頭の中は灰色の膜で覆われているようだった。
外からは春を思わせる小鳥のさえずり声が聞こえるのだが、
私の頭痛を癒すことは出来なかった。
私はいても立ってもいられず、ドライブウエイに落ちていた新聞を拾い
車を走らせた。行き先はなかったが、コーヒーが飲みたくなった。
ところで、私たちの界隈はあまり説明したことがないと思うのでついでに紹介しよう。
頭痛に良いとは思わないが、セーフウエーの並びにあるスターバックスで「ラテ」を買った。
この小さなショッピング・センターには中華料理店、花屋、文房具屋、スポーツ店、コピー屋、
そして美味しいアイスクリーム屋などがある。
私は「ラテ」を啜りながら再び車に乗った。ノースゲイトのモール(大きなショッピング・
センターで、この中にはメーシーズ、シアーズ、マービンズなどのデパートのほかに沢山の
小売店があり、映画館もある)の横を抜け、盲導犬センターの前に着くと車を南に走らせた。
車のラジオをクラシックにしてもジャズに変えても、心臓に鳴り響く大きな鼓動のような頭痛を
止めることは出来なかった。
一つ目の信号機がある三叉路を左折した。まっすぐ行けばサン・ラファエル市のダウンタウン
だったが、町の中に入ろうとは思わなかった。
フリーウエーの下を抜けるとマリン・シビック・センターに着いた。この建物は有名な建築家
フランク・ロイド・ライトによって造られた異彩を放った建築物である。
ここの駐車場で家から持ってきた新聞を開いたが特別関心を引く記事はなかった。
私は四階にある図書館に行くことにした。するとエレベーターの前で中年カップルに出くわした。
二人とも私が傍にいる事など無視するかのように邂逅に酔い、、図書館に着くまで話し続けていた。
私は二人を避けるように、あてもなく館内を彷徨した。DVDやCDのコーナー、そして雑誌などを乱読した。暫くすると、
頭痛がなくなってきているのがわかった。朝に飲んだ頭痛薬が効いたのだろう。
私は昼に近いこともあって、家に戻ることにした。
帰りは郵便局の前からAuto Deskの横をとおり自宅に戻った。
”先生”が陶芸教室のクラスを終えたところで、リビング・ルームに入ってきた。
『どう頭痛は?』
私は悪魔にとりつかれたように”先生”の顔を見るなり、図書館で見た男の言葉を真似てみた。
『君の顔を見たら、頭痛が飛んでしまったよ』
すると”先生”は間髪を入れず鋭く言った。
『私は貴方といるだけで頭が痛くなってきたわ』
以前にも思ってもいない事を言って失敗したことを思い出しながら、
私は口をつぐむしかなかった。