Shizuko's Ceramic Class

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管理人の戯れ言

91.アルツハイマー病

     レーガン前大統領が先月逝去した。アルツハイマー病に侵されて10年目だった。
 この病気にかかると、本人のみならず家族には大変な苦痛を伴う。お互いに意思疎通が 出来ないというだけでなく、誰であるかを認識してくれないからである。
 脳溢血も同じように過去の記憶を消してしまうが、人間の記憶を奪う病気は恐ろしい。

 夏休み前のことである。”先生”と娘の行動に懸念を覚えたことがあった。
 娘の朝食にシリアルを食べさせた。学校まで送って戻ってくるとテーブルにシリアルの 箱があったので片付けようと戸棚を開いた。すると冷蔵庫に入っているはずの1ギャロンのミルクが 入っていたのである。そのミルクを冷蔵庫に入れるとき”先生”が現れたので、このことを話すと「 私は何もしていない」と言った。同じ質問を学校から帰った娘にも聞いたのだが「私は何もしていない 」と同じ返事だった。三人しかいないこの家で二人とも否定したのである。
 私は二人に大いなる不安を感じた。これは健忘症というのだろうか? 暫くすると、私の存在すら 分からなくなってしまうのだろうかと不安がつのった。ナンシー・レーガンは10年の間、気丈に 看病をしたそうであるが、自分にも出来るのだろうかと思わざるをえなかった。自分を誰なのかも 知らない病人と暮らしていけるのだろうかと・・・

 私は自分の健康を誇りに思った。多少視力が劣ったぐらいで、今まで病らしい病はなかった。

 先日の日曜日、私は遅く起きてきた娘に「何でも自分でしなきゃダメだからな」 と怒りながらシリアルを出してあげた。
 裏庭で雑用を済ませて戻ると、テーブルにはミルクとシリアルの箱が置いてあった。
 また忘れたのかと呆れたが、私はもうコンピュータに向かっている娘の背中に向けていった。
 「片付けなくちゃダメじゃないか・・・忘れっぽいんだから・・・」
 「サンキュー」という無味乾燥な言葉が返ってきた。
 私はたっぷり入ったミルクのボトルを 持ち上げると台所の戸棚を開けてミルクを置いた。その瞬間、目の前の真っ白なミルクが真っ黒 に見え、冷や汗がこめかみから流れた。
 私は何事もなかったかのようにミルクを冷蔵庫に入れ直した。そして、ゆっくりとテーブルに 近づきシリアルの箱を『慎重』に戸棚にしまった。

 追記:
 この話を以前書いてなければいいのだが・・・・

6月13日2004年


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